第七章 重陽宮(2)
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*文章量が多いため、2ページに分けております。
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第七章 重陽宮(2)
過去の事
○○:道長。
帰一:昨日はご助力痛み入る。今後はお互い敬称を省きたい。
そのほうが「友」らしいと思うのだが、如何だろうか。
秋水:私も同感です。
○○:わかった、帰一、秋水。
帰一:うむ、では貴殿のことはどう呼べばよいか。無剣でよいか?
○○:○○。この名前の方が気に入っています。
昔は確かに無剣という名前で生きていました。
けど今は状況が違うから。
秋水:繭を破り誕生する蝶のように、新しい名前は新しい始まりのようだ。非常に面白い。
帰一:では本題に入ろう。事は急を要する。単刀直入に聞くが、知っていることを教えてはくれないか。
○○:五剣の境界について?
帰一:そうだ。詳しければ詳しいほどいい。
我には一瞬の光景しか見えない。前後に何があったのかを知らない。
もしそれを知ることができるのならば、
予知したことを変えられるかもしれない。
○○:予知したことを変える?!
秋水:帰一は全真教の破滅を予知しました。だからずっと探しているのです。未来を変える方法を。
○○:わかりました、それでは「最初」から話しましょう。
○○:この世界は我々の主、剣魔が作った五剣の境。
五剣とは即ち、青光、紫薇、クロガネ、木剣、そして私、無剣を指します。
私たち五人は世の礎石、五剣の境を守る責任を背負っているのです。
○○:しかし、主がなくなった後、我々五人は深い悲しみに暮れてしまった。
誰もが主の復活を望む中、狂乱した木剣だけが行動に移った。
世の礎石としての力を引き出し、五剣の境に歪みが生まれてしまった。
秋水:歪み、というのは……
○○:我ら五人を除き、ほとんどの生命が消え去るほどの悲惨さでした。
これも皆が大地の乱れに気づいていない原因です。
氷火島は崑崙山と繋がっていて、崑崙山はまた桃花島と繋がっている…
帰一:気づかなかったのは、あれを当り前だと思ったからだな…
今いる者たちは、すべてあの災厄の後から現れた、そうだろう?
○○:それは…何と言えばいいのだろう。
だが、私たち五剣と二人の仲間以外、皆さんの記憶はそれよりも後に出来たはず。
○○:当時私は剣魔が残した力を使い、剣塚で法陣によって五剣の境を復原しようとしたのですが、
力が足りず、主のものとは比べ物になれませんでした。
消え去った命の一部を剣塚に戻すことはできたものの、最も大切な記憶を戻す事は出来なかった。
○○:そして私も力に飲みこまれ功力を失った。木剣はその隙をついて背後から私を襲った。
○○:死の淵でやっと分かった、すべてが彼の仕業なのだと。
主に最も似ていた私こそ、主の魂を閉じ込める傀儡、
私が消えたら、剣魔を五剣の境に戻せるのだと彼は考えた。
秋水:なら今のあなたは?!
○○:五剣として、礎石の力が抜かれない限り、剣境に戻ることができる。
だが一度死ぬたびに、この身の効力と記憶を失う。
もし運が良ければ、最も印象の深い記憶だけは残されるでしょう。
秋水:では、あなたは復活した時、外へ逃げたのですね?
○○:はい、けど目覚める途中で木剣に襲われた。その後の事は何も…
次に目覚めた時には、氷火島にいたのよ。
この後、私は二人に氷火島から今までの出来事を話した。
秋水:ということは、木剣と引魂鏡と魍魎を作り出すのは、自身の力を増幅するためなのでしょうか。
○○:そう、けど何を企んでいるのかは未だ分からない。
木剣はいま全世界に視野を向けたということだけが分かっている。
だけど剣塚での戦いの後、まだ彼の居場所は掴めていないの。
○○:それで、私と友達は別々に行動することにした。
○○:倚天と屠龍は青光、紫薇、クロガネを探し、私と手を組むように説得しに行った。
丐幇の頭領は五剣の境で手引きを配置し、木剣の行き先を探っていた。
金鈴は古墓へ戻り同門を召集し、剣塚周辺の罠の仕掛けを手伝った。
帰一:木剣については、外に出ている弟子たちにも注意させるようにする。
○○:感謝します。
秋水:帰一、山の見回りの時間です。
先に失礼します。
○○:山の見回り?
帰一:重陽宮は険しい終南山の山頂に位置し、守りやすく攻めがたいが、同時に退路もない。
よって敵が集結して山門を包囲しないよう、見回りやすくする必要がある。
○○:帰一、先ほどの話は長くて難しいことも多い。天火と予見のことはまた後日改めて話しましょう。
あと秋水には剣塚の魍魎退治の件で恩がある、
その見回りに私も協力させてください。
秋水:よろしく頼む。
終南山は泰嶺の中間に位置しており、見回りできる範囲も限られている。
秋水は武術に優れた弟子を4隊に分け、東西南北の4方向で山を捜索した。
その日、唯一私が所属していた東の捜索隊だけが敵と遭遇し、その位置は遠く離れた中間東麓山脈の端だった。
予見したこと
帰一の前にある木枠に、妙な石が置かれている。
表面には亀裂が入り、全体に青い炎が灯り、私の目はそこに引き寄せられていた。
○○:これが天火でしょうか?
帰一:うむ。一年前、我々が終南山の密道で発見した奇石だ。
これの形と特徴が流星に似ているので、天火と名付けた。
帰一:この石は無限の力を宿している。触れたものは狂乱状態に陥った。
理性を取り戻した者もいるが、目覚めない者もいる。狂乱して無差別に他人を攻撃する者もいる。
○○:あなたでも天火に触ったらそうなるの?
帰一:そうだ、幸い理性を取り戻すことが出来た。
その後よくよく考えると、触れた時、ある景色が見えたのだ。
そこで決死の覚悟で再度天火に触れた時、目の前に未来の情景が広がったのだ。
秋水:それが天火が神器と呼ばれる由来です。
天火は触った者に未来を見る力を賦与します。しかし、殆どの人がその力に耐えることが出来ません。
今天火を使って未来を見ることが出来るのは帰一のみです。
○○:あなたが予知した未来は全て現実になったと聞いたけど、本当なの?
帰一:最初の予知は、早朝の訓練に我が遅刻したことだ。
我は一度も遅刻したことがなかったので、ありえないと思っていた。
帰一:しかしある日早朝、訓練に向かう途中、剣の練習をしていた弟子が怪我をしていたので我は帯と布で手当てをしてあげた。
その後汚れた服を変えて訓練に赴いたのだが、遅刻してしまった。
秋水:弟子たちはみなこの話を知っています。なにせテンコウが掌教師弟を叱ったのですからね。
○○:掟を破れば、そこに正当な理由が有るか否かは問わずに叱責するのか。
厳しいな、テンコウは……
秋水:天地は仁ならず、万物をもって芻狗と為す。聖人は仁ならず、百姓をもって芻狗と為す。
テンコウは天地万物みな道に沿って動き、道は人によって変わることはありません。
秋水:故に何人とも規律を守り行動するべきで、規律に反するものは皆罰するべきだと考えています。
○○;少し厳しくもあるが、あの若さで自分の進む道を悟るなんて、容易なことではないわ。
秋水:帰一と私が彼を重んじる理由もそれです。
若い弟子の中で、彼の右に出る者はいません。
帰一:その後、まあ他何度か天火に触ってみた。
予知の内容も大小様々だったが、どれも現実となった。
帰一:天火を信じて疑わなかった。全真教が滅びる悲劇を予知するまでは。
帰一:ある日の午後、秋水とともに重陽宮に戻った。
帰一:山門を守る門下生が倒れているのを見て、急いで重陽宮を見回り、生きている者を必死に探した。
○○:門下生の死因は分かったの?
帰一:みな切り殺されていた。
○○:なら弟子たちに抵抗した形跡はあった?
帰一:地面や壁には剣の跡は残っていなかった。
弟子達の傷は心の臓と喉に集中していた。敵は武功に長けているのだろう。
これは木剣の仕業だろうか。
○○:彼じゃないと思う。
木剣は草木竹石を刃に替えて操ることでその名を得たの、木製の剣ではないわ。
秋水:…拙僧、そのような境地に達した者など想像できません。
○○:そうですね…簡単に言えば気で剣を操るということでしょうか。
ほかに気づいたことはありますか?
帰一:あまり参考にならないかもしれないが、一部の門下生の目は大きく見開かれており、愕然とした表情のまま、こと切れていた。
○○:うん?愕然?
まさか……
テンコウ:もともと資質も平凡な上に、いつもダラダラとし、武功も修行もいい加減です。
全真教の奴らのせいでだめにならないよう、小生が全真教を栄えさせなければならない。
もし掌教の座に付いたら、絶対奴らを全て追い出します。
○○:(テンコウなのか……)
なぜかは分からないが、その可能性について考えれば考えるほど、彼の言葉は私の脳内から離れなかった……
その後別の可能性についても考えたが、それらはほとんど無意味な憶測であり、この未来に起こる悲劇を解き明かすための証拠とはならなかった。
話が終わった後、私は秋水と共に山の見回りを始めた。
昨日のことが嘘のように、山門から出るとすぐに魍魎の襲撃を受けた。
山門奇襲
この魍魎は冥狼爪、木剣の精鋭だ、彼らに太刀打ちできる相手ではない!
テンコウ:やつらの跳躍力は驚異です。この山門など全く役に立ちません。
秋水:山門を飛び越えられるのは冥狼爪だけ。弟子たちも人数で押し切れるでしょう。
山門は一般的な魍魎の侵入を防ぐことしかできません。
○○:秋水の言う通り。帰一もいるから、重陽宮の守りを心配する必要はありません。
○○:それに、冥狼爪の行動は狼に似ている。
もしそいつらの頭領さえ倒せれば、この襲撃も容易く解決できるはず。
秋水:ふむ、少々お待ちを。
……
テンコウ:待て!
○○:待て!
秋水が弟子たちに山門を守るように指示していたその時、森の中から白い影がさっと通り過ぎた。テンコウは大声で怒鳴り、すぐに追いかけた。
私が後を追おうとすると、突然冥狼爪の群れが山林から飛び出し、まだ後退していない弟子たちに向けて飛び込んできた。
浮生を追撃
○○:分からない、地面がこの様子じゃ、彼の足跡が見つからないよ。
秋水:テンコウは何故さっき飛び出したのでしょう?
○○:浮生を見たようです。
秋水:まず、これは罠です。すぐに追いかけましょう。
二手に分かれ、一人は北側の、一人は南側の森を捜索しましょう。
○○:こちらからは向うが見えないが、向うからはこちらが見えるのです。
森は奴らにとって有利な場所。手分けして探すのは危険よ。
秋水:しかし……
○○:……
(浮生とテンコウ、彼らには通ずるところがある……)
○○:秋水、テンコウの居場所が分かったよ、早く行こう!
秋水:分 か り ま し た 。
私たちは山道に沿って走り続けた。しかし行く手には多くの魍魎が待ち構えていた。
道を遮る妖異
○○:うん、それで間違いないはず。
秋水:なぜそんなに自信が?
○○:浮生の事はよく知ってるから、彼はテンコウと同じ傲慢で自負する人だ。
さっき森で攻撃されたフリをしたのは、私たちを森の中に誘って、
自分が一番発見易い山道の上にいて、私たちを弄ぶ遊びを楽しむのよ。
○○:浮生は私たちを足止めしているのよ、恐らく彼の本当の目的は……
秋水:危ない!
単刀赴会
テンコウ:あの日は魍魎に追われているフリをしていたようだが、難儀だったな。
浮生:はは、師兄のお褒めに預かり光栄です。
俺についてこれるなんて、さすが全真教の秀才だな。
テンコウ:ふん、白々しい。
浮生:ここにはオレとお前だけしかいない。いつでも剣を抜ける。社交辞令を交わす必要はなかろう?
テンコウ:何を企んでいる?
浮生:俺とお前は同じだ、互いに他人の野心の為に力を振るっている。俺自身が企むことなどない。
テンコウ:一心一意(いっしんいちい)求道する私と貴様のような走狗が同じだと?
浮生:走狗か。確かにそうだ。
それは俺が自分より強い者の為に働くことが自分の求める道により近づけると知っているからだ。ところがお前はどうだ。
凡才だらけの全真でお前は道を得られるのか?
テンコウ:全真を裏切り、木剣に着けと説くのであれば、無駄だ。
浮生:愚か者目。お前の道は全真か?木剣か?いや、あの独特な名前であろう?俺も頭のいい奴と知恵比べはしたくない。この話はここまでだ。全真教のテンコウ道長。
テンコウ:……黙れ。
浮生:お前の道は、テンコウでしかないのだ。
テンコウ:黙れ!剣を抜け!
浮生:ふふふ、お望み通り。
……
秋水と私がテンコウを見つけた時、彼は道端に倒れていた。
赤く染まった僧衣はズタズタに破れ、全身に12ヶ所に及ぶ刀傷があったが、何れも致命傷ではなかった。
秋水はテンコウの傷口に簡単な手当てをした。
昏迷していたテンコウはたまに「勝った」という言葉を口にしていた。
テンコウ:勝った…勝った…
無事重陽宮に戻った後、弟子の一人があの後の顛末を秋水に伝えた。
私たちが離れたあと、魍魎は山門に向かって猛烈な進行を何度も行ったが、帰一が一人で解決したようだ。
最初の奇襲で命を失った弟子以外に、全真教に死傷者はいなかった。
未来予知
○○:昨日は一晩中寝てないよね?
明日にしようか…
帰一:今日のことはそれほど差し当たりのない事だ。心配無用。
○○:うん、分かった……
帰一:今日は貴殿に五剣の境により関連の深い未来を見せようと思う。
たとえ世界の捻じれを修復する方法を探すか、或いは木剣がこの世界を壊すための陰謀を暴くにしても、時間はあまりないのだ。
先手を打つ必要がある。
○○:帰一、それは私にこの天火に触れろということ?
無理無理、触れた人は狂乱に陥るって言ってたじゃない、私は…
帰一:今までの貴殿の経緯から、貴殿と我では持つ力が全く異なる。
我のやり方を教えれば、貴殿はより多くのことを見ることが出来るであろう。
○○:……うん、話して。
帰一:うん?考えが変わったようだが?
○○:昨日貴方は夜通し働いていたし、テンコウの事も心配だろうし、きっと疲れてるでしょう。
私はただあなたの体力をこれ以上無駄話で消耗させたくないのよ。
帰一:かたじけない。
○○:天火の使い方を教えて。準備はできたよ。
帰一:天火を使う上で三つの注意すべき点がある。
まず心を落ち着かせること。
五感が受けた衝撃で慌ててはならない。さもなくば幻に囚われ、戻ってこれなくなる。
帰一:その二、真気を巡らせること。
天火の力は強いが同時に乱れている。真気を巡らし、力の衝撃に耐えなければならない。
帰一:最後に全身全霊で集中すること。予知はあっという間だ。
なるべく多くの情景を覚えねばならない。
帰一の説明を聞き終わると、私は三つの掟を脳内で何度も繰り返した。
そして、息を深く吐き、天火に向けて右手を伸ばした。
青い炎がいきなり飛び出し、まるで私が近づく事に警告をしているようだ。
だがそれが本物の炎でないことを知っている。私は勇気をふるって掌を奇石の表面に触れた。
強大な力は私の魂を戦慄させた、目に映る宮殿はすぐに違う場所へと姿を変えた。
○○:(これが剣塚の中の…剣閣?!)
(素晴らしい山水画!署名者は…「剣魔」?)
(主が画を描いていた覚えはないけど…)
○○:(ここはどこの山だろう?えっと…無名山?)
(それにあれは…しまった、無魔!)
剣魔の絵
○○:うん、ごめん、心配させて。
さっき戦いを予知したから、つい心を抑えきれず。
帰一:初めては誰しもそうなる。
しかしこんなに早く意識が戻るとは、かなりすごい事だ。
○○:どれくらい昏睡してたの?
秋水:十分少々です。
意識がもうろうとしていた私に、馴染みのある声が聞こえてくる。
振り返ると、秋水とテンコウが傍に座っていた。
○○:テンコウ、目が覚めたのね!
テンコウ:かすり傷だ、なにをそう驚いているのか。
○○:はは、元気になったようね。
テンコウ:フン。
秋水:先ほどの予知、なにか重要な事柄でも?
○○:私は剣閣である山水画を見ました。そして署名者は主である剣魔でした。
○○:絵の上には「無名山」という三文字があって、
それをよく見ようとしたら、襲来した妖怪に邪魔をされたの、
もう少し時間があったら、もっと多くの事を予知できるかもね。
帰一:逸るな。
時間をおいて再度挑戦するがよい。さもなくば現実と未来の区別がつかなくなるぞ。
○○:ではまた一ヶ月後、また全真に来ます。
帰一:ああ、その時に、我と秋水は貴殿に天火を託そうと思っている。
病みつきテンコウ
もしもう一度あの光景を予知すれば、救いの方法を見つけられるかもしれません。
帰一:全真は古来より大局を優先する。木剣によって五剣の境が壊されては、全真も存続できまい。
五剣の境を守り、なおかつ本教を救う事が肝要なのだ。
そして今のところ、天火の存在がそれを可能にする。
帰一:それに、木剣はすでに未来が予見できる天火が全真教にあると知っているだろう。
もし奴らが自ら魍魎を率いてここに攻め込んだならば、彼らは恐らく防ぎきれん。
奴に奪われるより、貴殿に天火を託し、安全な場所に隠してもらう方が良いだろう。
テンコウ:戯言を!
テンコウ:天火は終南山の密道で発見した我が教の至宝です。神器を余所者にやる道理がどこにあるのですか!
秋水:テンコウ、大局のためです。
テンコウ:ふん、何が大局か。
テンコウ:我ら出家した者は、真を修め性を養い、道を極め仙と成すべきです。
テンコウ:教内では規律厳守、破壊者厳罰。
教外では仁を問わず奉行し、世間万物と平等に接する。
修道者が人によって意見を変えてよいはずがありません!
テンコウ:木剣が天火を奪いに来れば、死守するのみ。
肉体が滅しようと、真性は解放されるでしょう。恐れるに足りません。
帰一:テンコウ、仙道を修めし者、先ず人道を修めるべしという言葉を知っているか?
テンコウ:存じません。
帰一:合抱(ごうほう)の木も毫末(ごうばつ)より生じ、九層の台も累土より起こり、千里の行も足下(そっか)より始まる。
お前は重陽宮で育てられ、山から降りて遊歴したこともない。道が少しずれているのではないだろうか。
帰一:上善水の如し、水は善(よ)く万物を利して而(しか)も争わず。衆人の悪(にく)む所に処(お)る。故に道に幾(ちか)し。
方外の者は凡俗を超越すると同時に、善行を施すのだ、
世を済(わた)す人道を修めずにして、どうして仙道を昇れるのか。
テンコウ:……
テンコウ:(道!道…道…。全真でもなく、木剣でもなく、テンコウ)
テンコウ:(資質が平凡な師兄弟…天火を送られる教外の者)
(規律を守らず、教管に服さず…)
(全真教の滅亡…許せぬ、絶対に許せぬ!)
テンコウ:道同じからざれば、相(あい)為(ため)に謀(はか)らず!
その時、突然テンコウが天火を奪おうとした。秋水は急いで手を伸ばしテンコウの手を奇石と引き離した。
だがその時、勢いあまって秋水が天火に触れてしまった。
秋水:あああああああ!
帰一と私はまずいと思い、慌てて天火を奪おうとした。
秋水は剣を振り、帰一と私はやむを得ず後ろへ避けた。
強い剣気が私たちの背後にある柱を真っ二つにした。
テンコウ:秋水…師叔…
テンコウはその凄まじい剣気に驚き、その場でびくとも動けなかった。
○○:帰一、秋水の様子がおかしい?!
秋水:私を見くびるなんて!
○○:秋水、気を確かに!
秋水:揺光は北斗の末端に列するが、明るさは三位に入ります!
位で人を見たら痛い目に遭いますよ!
○○:どうしても正気に戻らない。どうするの!
帰一:おそらく天火の力があふれ出ているのだろう。はやく彼を取り押さえなければ。
秋水:ふふ、私はまだ本当の力を見せたことはない……はっ!
全真の戦い
万寿殿の入り口には多くの弟子が構えていたが、彼らは己の武力が低い事を察し、それを傍観することしかできなかった。
幸いテンコウが意識を取り戻し、秋水の攻撃の隙間を縫って懐に飛び込んだ。
二人は柱に衝突し、秋水が手に持っていた剣と天火が地面に落ちた。
そして入口にいた弟子が、急いできていた服を使って天火を包んだ、
○○:よかった!道長……
目を凝らして見ると、その弟子は浮生だった。
彼が万寿殿から飛び出した瞬間、外から悲惨な叫び声が聞こえた。
私は浮生を追ったが、急に目の前にテンコウが倒れこんできた。
天火は既に秋水の手には無いはずだが、彼はその影響から逃げられなかった。
帰一は剣を捨て、彼を抑えようとした。
テンコウ:こ…ここは小生に任せて、
天火を必ず…取り戻してください。
テンコウは震えながらそう話をしたかと思うと、帰一と共に秋水を挟み撃ちにした。
私は躊躇うことなく、宮殿の外へ飛び出した。
外の状況は見るも無残なものだった。全真教の弟子と魍魎との混戦、どちらが攻めでどちらが守りなのか区別できないほどだった。
山門の方向へ向かって浮生を追撃する瞬間、二頭の冥狼爪が高く飛び、私の行く手を阻むいた。
天火の猛威
○○:浮生!テンコウに何をした?
浮生:別に何も。少しばかり知恵を貸し、自分の道を貫かせただけだ。
○○:剣に毒を塗ったというのか?
浮生:よくわかったな?
○○:あなたには一度騙されたからね。もう騙されない。
テンコウの体には沢山の傷があったけれど、すべて急所は外れていた。
彼を利用するほかに、殺さない理由が思いつかない。
○○:最初の計画が失敗した後、あなたは逃げたように見せかけ、全真の弟子に扮して重陽宮に紛れ込んだ。
○○:そして、あなてゃあ山門への攻撃を計画した。
自らテンコウを奥まで誘って、天火奪取の重要な駒とするためにね。
浮生:お前の推測通りさ。剣に幻覚を引き起こす毒を塗った。
テンコウ剣が追ってきた後、まず言葉で暗示をかけ、そして戦いのさなか、奴を刺した。
単純な奴のことだ、自分が本当に俺に勝ったとでも思っていただろう。
○○:浮生、あなたが毒に長けているとはね。
浮生:あの頃お前の周りには豪傑だらけだったからな、俺が手出しする必要はなかったのさ。
○○:それは本当?
わたしの身代わりに猛毒の針を受けたのに?
浮生:……
○○:浮生、たとえ過去では忠実な丐幇頭領を演じていたとしても、
身を捨てて私を助けてくれたのはきっと本心に違いない。
○○:知っていますか?私は「無剣」に戻ったはずなのに、
やっぱり○○という名前が恋しい。みんなと一緒に過ごした時間を、毎日思い出していた。
浮生:ふん、偽りの記憶だ、まったくどうでもいい。
○○:自分の命さえも?
浮生:どういう意味だ?
○○:今の木剣は冷酷無比です。
生あるものを躊躇なく傀儡と化し、あなたをすぐに消すことも厭わないでしょう。
彼の下にいて、あなたは望み通りの結果を得られるのですか!?
浮生:木剣からすれば、オレは虫けら同然だ。
だが起きてしまったことからは永遠に逃げられない。木剣は命の恩人だ。
そして、初めてオレに生きることを教えてくれた人だ、
浮生:俺は…俺はあいつを裏切ることはできない。
○○:浮生!
それは言い訳に過ぎない、あなたには分かるはず。
戻ってきて、みんなあなたを……
浮生:いや、無剣、お前は俺を過大評価しているのだ…
この戦いは避けられまい、そして俺は決してしくじりはしない!
浮生は懐から天火を取り出し、強大な力は一瞬で爆発を起こし、青い炎が彼の全身を包み込んだ。
彼ははじめこそ力に耐え切れず、暴走寸前だったが、その気合で徐々に平静を取り戻し、天火の力によって決死の戦いに挑もうとしていた。
長旅の剣塚
ただ戦いの最中、無形の剣気でそれを切り裂き、青い炎は消え去った。
気力が尽きた私は地面に倒れ、瞼を開くことさえも出せなかった。
……
再び目を覚ましたのは、三日後の朝だった。
○○:帰一、魍魎は退いた?
帰一:うむ。貴殿が彼を追って行ったあと、重陽宮を襲った魍魎は撤退した。
おそらく天火の予知の力が消えたので、浮生が手を引いたのだろう。
○○:天火……私のせいだ……ごめん、本当にごめん。
私は天火を持っていたのに、それを考える余裕がなかった……
帰一:浮生を退けてくれた貴殿には感謝しきれぬ。さもなければ多くの弟子が倒れただろう。
それに天火は貴殿に贈ったものだ、謝る必要はない。
○○:そう……じゃあ秋水か?もう目が覚めた?
秋水:私は大丈夫です。帰一とテンコウは私を取り押さえるため、逆に深手を負ってしまいました。
私は幻境に囚われてしまったばっかりに、あなたを攻撃してしまったこと、なにとぞご容赦ください…。
○○:自分を責めないで、あれは予想外のことで、無事ならそれでよかった。
え?そう言えばテンコウは?
帰一:彼は…ふむ、一つ、頼まれてくれんか。
○○:はい、なんでしょう?
帰一:誰かが妙な噂を流してな、弟子たちはいま、
テンコウのことを重陽宮に魍魎を導いた罪人と見なしている。
○○:帰一、それは浮生が――
天火を襲ったのは……
私は事の顛末を一部始終話したが、秋水はただ頭を振った。
秋水:テンコウは日ごろより人に厳しく、教律に違反した弟子に対しても妥協しませんでした。
さらに自尊心が高く、他の門下生とも交流がありません。
そして今回このような大きな騒ぎですから、門下生が彼をほっとくわけがありません。
秋水:教律によれば、敵に通じ、教を裏切るのは死罪。
脅迫を受けていたとしても、全真教から追い出され、一生山門に戻ることが出来なくなります。
○○:まさか、そんな……
帰一:我らが彼のために弁解しても、気位の高い彼は重陽宮に留まろうとしないだろう。同門に対し心疚しいのも事実だし、あの日、彼が自分かっれに浮生剣を追わなければ、こんな事にも発展しなかった。
○○:だから、テンコウを連れて全真から離れろというのですか?
帰一と秋水は頷いた。
帰一:やや偏屈ではあるが、今回の件で、テンコウもきっと得たものがあったはずだ。
武学の資質が元より高くて、基礎もある。貴殿についていっても邪魔にはならないだろう。
彼を連れて山の外で修業させると思ってくれればよい。
帰一:弟子たちの怒りが収まった後、秋水と我がテンコウを受け入れるよう改めて説得したいと思う。
如何だろうか?
○○:テンコウは人々に疎まれていたけれど、今回の剣は浮生によるもの……決して彼のせいではないわ。
ここで罰を受けるくらいなら、私と一緒に剣塚へ行く方がいい。
秋水:分かりました。では彼と相談しましょう。
秋水の話が終わらないうちに、テンコウは風呂敷と剣を握って入って来た。
テンコウ:その必要はありません。私は剣塚に赴きます。
今回全真教が魍魎に襲われたのは確かに拙僧の責任。
重陽宮を離れて罪を償い、師兄弟たちに筋を通したく存じます。
帰一:テンコウ、外では言動を慎み、無駄な争いを起こしてはならぬぞ。
しばらく重陽宮には戻れまい。出立の際にはじっくり見てゆくがよい。
テンコウ:はい、師叔の教え、しかと肝に銘じまする。
秋水:さきほど弟子たちを万寿殿に集め、テンコウの処遇を伝えることを伝達しました。あなたたちはこの隙にお行きなさい。
帰一:時間がない、剣塚でまた話そう。
気をつけてな。
○○:分かりました。剣塚でお待ちしています。
ではこれで失礼します。
帰一や秋水たちと別れた後、私とテンコウはすぐに重陽宮を離れた。
山道の途中で、テンコウは山頂の萬寿殿に振り返り、それをしばらく眺めていた。
朝鐘が鳴った後、テンコウは再び歩き出し、私と共に終南山を後にした。
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